2009年02月27日
建築失敗談 その3
十数年前のこと。
街中の狭い家に住んでいた方が、郊外に新築を予定していた。
施主の方は広々とした家を望まれていたので、廊下や階段にもゆとりのとれ
るメーターモジュールを採用し、50坪ほどのプランを造った。
1階の日当たりの良いところには、高齢になるお父様の和室を設けることに。
今まで狭いところだったからと、床の間付の8畳に広縁4畳程が併設された
贅沢な空間にした。因みにMモジュールの8畳は、4m×4mの16㎡で、普
通の畳数に換算すると9.6畳という広さになる。
完成してからの出来も、全体的には満足して頂いていたが、ただ一つ、予想
もしていなかったことがあった。「自信作」だったお父様の和室8畳の真ん中
には「ついたて」が設けられ、ついたてとTVとの間の狭い空間にコタツを置い
て座られていたのだ。これを見て即座に悟った。
「この広すぎる空間は、落ち着かないのだ」 ということを。
「今まで狭かったから広い所に住みたい」。自分も含めて皆そう思っているは
ずだという錯覚。 お年を召された方に、今迄と違う環境は居心地悪いであろ
うということを、全く予見できなかった愚かさ。
このことを施主さんからも、お父様からも指摘されることは無かったが、自分と
してはかなりのショックで、「大きいことは良いことだ」と思っていたそれまでの
住まいに対する考えを、見直す転機になった。
そのお父様も今はお亡くなりになっているが、天国できっとこう言って下さって
いると勝手に思っている。
「あの広すぎた部屋は落ち着かなくていかん。でも最期に立派な部屋を造って
くれた、その気持には感謝しとるよ」
と。
投稿者 tamagawa : 2009年02月27日 15:32